格闘家 / 指導者 インタビュー
女子プロレスラー 春日萌花(はるひ もえか)さん
目次
今回のゲスト 女子プロレスラー 春日萌花(はるひ もえか)さん
リヒテンシュタイン公国。
「どこにあるの?」と私達日本人にイメージがわきにくい国ですが、スイスとオーストリアに挟まれた人口約3.9万人の自然豊かなで、お洒落な切手作りで有名な国です。
そんなリヒテンシュタイン公国出身を自称する春日萌花さん(以下、春日さん)が、日本で2005年に女子プロレスラーとしてデビューします。
女子プロレス団体の我闘姑娘(がとうくうにゃん)に所属し、努力家であることに加え、キュートなルックスとかわいい声から、メディアでも注目を集めてきました。
近年はタッグ選手権でタイトルへ挑戦し、第23、26代 GWC(ガッツワールドプロレスリング)認定6人タッグ王座、デイリースポーツ認定女子タッグ王座に輝きます。
その一方で、春日さんは2014年にスポーツ選手「初」の気象予報士となり、ニックネームは「闘うお天気お姉さん」に。
さらに、毎週土曜深夜はFM NACK5でワイド番組「FANTASYRADIO」のパーソナリティを務めるだけでなく、声優・ナレーター・三遊亭圓雀師匠の素人弟子として落語も披露されています。
今回はそんな多彩な才能を発揮し続けている春日さんにインタビューを行いました。
--プロレスをはじめたきっかけを教えてください。
子どもの頃は、家でのルールが厳しく、テレビでも戦う系のアニメなどは見られませんでした。
その反動からか、中学生の頃から両親が仕事で忙しくなってくるとゲームやアニメ三昧に。
そして、高校3年生の時に知り合いに誘われ人生初のプロレス観戦へ!
リングの上で力強く戦う選手の姿は圧巻で、非日常の世界に惹きつけられ、その日からプロレスのファンになりました。
高校卒業後は「いつか自分の好きなことをするためにお金を貯めよう!」とイベントコンパニオンとして働きはじめました。
そんな10代終わりの頃に、関東の海辺のスーパーに派遣され、慣れない土地でマンスリーマンションとそのスーパーを往復するだけの生活が1ヶ月続いたことがありました。
「このままで良いのだろうか」
「オーディションに通らない=この世界では必要とされない自分」
「いずれ若さもなくなる」
焦燥感や不安が大きくなり、気持ちが沈むと夜も眠れなくなりました。
そして、自分の頑張るべき場所、自分を必要としてくれる場所はないだろうか、と考え抜きました。
その時に、もともと、働いてお金を貯めている理由は、自分が本気でやりたいことを見つけた時に全投資するためだったことを思い出します。
「私のやりたいことはプロレスだ!」
と一年発起で、心の拠り所だったプロレス界に入門しました。
--プロレス界に入門した頃の様子を教えてください。
当時、千葉を中心に活動していたプロレス団体 KAIENTAI DOJO(カイエンタイドージョー)へ練習生として入りましたが、「場違いだな…」と感じていました。
そもそも学生時代に所属していた部活は文化系で、体育の時間以外これといった運動をした記憶がありません。
プロレスは体育会系の組織なのに、自分は運動部歴も運動経験もゼロ。
そりゃ場違いさを感じるはずです。
入門してしばらくは本当にキツかった…。
初日から大きなグラウンド10周のランニング、その後10本ダッシュ、スクワット300回など。
終わった後は立ち上がれないくらいでした。
それでも、継続していると徐々に基礎体力がつき、半年でスクワット500回までできるようになりました。
このとき「人は変われる!」って思ったんですね。
練習生は体力作り以外にも仕事が多く、ちゃんこ鍋を作る、掃除、洗濯、大会の準備等色々とやっていました。
先輩との上下関係も気を使い、今思い返しても少々苦労したかなと感じます。
--女子プロレスをやってよかったこと・人生で役に立ったことを教えてください。
自分が世の中に必要とされているように感じられることです。
「春日さんにお願いしたいです」とオファーをもらえることに感謝しています。
もう一点は物販などでファンの方と交流を持てること。
元々スポーツ歴があるわけでもなく、怒られることも多く、試合後も反省点ばかり。
人間関係も大変な部分がありましたが、つらい事も全部ひっくるめて 「仕事」として割り切っていたんですよね。
そんな時に心の支えとなってくれていたのがファンの方たちです。
試合や人間関係は大変でも、どんなに辛くても、売店に立てばファンの方が会いに来てくれる。それがどれ程の励みになったか…。
物販の時間だけが楽しみだった時期も長く、ファンの方のおかげでプロレス界での命を繋いでもらい、今もプロレスラーを続けることができています。
みなさんの笑顔が私にとって最高のご褒美です!
--ファンとの思い出エピソードを教えてください。
プロレスラーには誕生日が2回あると言われています。
1つは本来の自分の誕生日、もう1つはリングに初めてプロレスラーとして誕生したデビューの日です。
私の記念日に合わせて、あるファンの方が他の選手の売店へ行き、その選手のポートレート(写真をA4サイズに印刷したもの)購入して「春日さんへ!って書いてほしい」と頼んでくださいました。
たくさんの選手から私に向けてメッセージを書いてもらい、集めたポートレートをかわいいイラスト付きのファイルに入れて、私にプレゼントしてくれたんです。
そんなステキなサプライズはなかなかないので感動しちゃいました。
他にも一所懸命手紙を書いてくれたり、私が動物のナマケモノが好きなので似顔絵とナマさんを一緒に描いてくれたり…。
温かい気持ちをたくさんいただいています。
--どんな人・タイプの方がプロレスに向いていると思いますか。
自分を必要以上に責め過ぎないで、一本芯を持ち続けられる人です。
たとえ周りから色々言われてもブレないような性格の人が向いています。
動物でいうとウォンバットみたいな。人慣れするこもいてとてもかわいいけど、実はお尻がすごく硬い動物なんですね、見えない芯の部分が硬いイメージです。
--FM NACK5のパーソナリティとしてもご活躍され、スケジュールの管理は大変ではないですか。
週末のスケジュールは確かに忙しいですね。
土曜の夜にプロレスの試合、終わって深夜から明け方までラジオの生放送があり、その後少し寝ます。
日曜の夜にまたプロレスの試合があり、その後ぐっすり休む感じです。
健康状態を保つには睡眠不足が一番の敵なので、寝られる時にはしっかり寝ます。
2015年4月からラジオを任せてもらっています。
他のパーソナリティの方たちは能力が高く、マルチタスクがこなせて高い語彙力があったりですので、冷静になると「私でいいのかな…」と不安になってしまうことも。
でも、できる限り情報収集をして楽しくお届けできればと思っています。ぜひ深夜に起きている方は聞いてみてくださいね。
--これからプロレス観戦に興味がある方、実際にプロレスをはじめてみたい人へメッセージをお願いいたします。
プロレスファン時代は、私にとって自分らしく過ごせる場所がプロレスでした。
思えば人間は誰しも「ただの人」なのに、年齢を重ねるにつれ学校では「〇年生」、結婚すれば「夫」「妻」、親になれば「お父さん」 「お母さん」になり、会社では「部長」「上司」など立場が変わりますね。
世間の肩書きで呼ばれる自分ではなく、裸の自分になれるのがプロレス会場。日頃の悩みから離れてストレスを解消できるはずです。
逆にプロレスラーになる時に、サラリーマン兼業レスラー、女優レスラー、お笑い芸人レスラーと今までの肩書きが武器になります。
でも「肩書きが何もない」方でも大丈夫! 私も最初は何もなかった。
誰でも輝けるチャンスがあるのがプロレスの世界です。チャンスを掴んであなたの居場所ができますように。
--お休みの日は何をして過ごされていますか。
埼玉県めぐりをしています。旅行が好きで、あちこち旅をしてはネタを集めてラジオで話していますね。
先日は秩父まで遊びに行き、埼玉県はうどんが名物なのでうどん作り体験するなど好奇心のままオフを楽しみます。
--好きな音楽・アーティストを教えてください。
私のラジオでゲストコーナーに来られた方の音楽はよく聞いています。
出演してくださる前に曲をお聞きし「こういう曲を歌われるのか」と学び、出演後にまた追いかけて新曲なども聞いています。
アニソンが好きで佐咲紗花さん、nano.RIPEさん、YURiKAさん、ソナーポケットさんなど、ご出演くださった方の曲はより好きになり何度も聞きます。
--気象予報士の資格はどんな経緯で取得されたのですか。
元々はマネージャーに「気象予報士を勉強してみたら」と言われてやってみるかと興味を持ちました。でもとても難しいんですよね。
「こんなの無理!」と思いながらも遠征に参考書を持って行ったら、ちょうど2011年3月11日の東北大震災に直面しました。
幸い地下にいたので揺れはそこまで感じず、地上に出てからは余震に何度も遭いその日の夜はホテルへ宿泊し、翌日の昼に避難所へ行きました。
その後、仙台にある女子プロレス団体「センダイガールズプロレスリング」さんの選手が迎えに来てくれて、お知り合いのご自宅で数日過ごさせてもらいました。
そこでおにぎりをいただき、食べたらすごく美味しくて!涙を流しながら食べました。
今でも人生で一番美味しかった食べ物です。
仙台の街中でも多くの方に助けていただきました。
みなさん被災して不安の中、お互いに協力し合っていました。
停電したコンビニではお菓子を100円で販売してくれて助かりました。電気がつながる場所では携帯の充電が自由にできてすごく有難かったです。
「被災」という今までにない経験をしたことをきっかけに「もし私に気象の知識があれば、誰かを助けられる かもしれない!」と思いました。
それからは中学1年生の数学から学び直し、気象予報士試験を7回受験して合格しました。
今ではラジオ番組の中で、お天気の豆知識などをお話ししています。
--座右の名やモットーがあれば教えてください。
「できるできないではなくやる」
プロレスラーになってからずっと頭にある言葉です。やって結果に繋げること!
私は全く運動をしてこなかったけど、プロレス界に飛び込みました。苦手なこともあえて挑戦してみることが大切だと思っています。
逃げてもどこかでツケが回ってくるんですよね。
中学から理数英で成績不振となった私自身も今、大学の通信を受け勉強しています。
--今後の目標を教えてください。
これからもファンの方々の笑顔にできるだけ触れることです。
1日でも長くプロレスラーとしてリングに上がりたいと思っています。
(取材時、生体腎提供(ドナー)手術発表前)
春日萌花さん、この度はお忙しい中ご協力いただき本当にありがとうございました!
おわりに
春日さんは2023年4月13日にガンバレ☆プロレスの記者会見で、実姉への生体腎提供(ドナー)手術のため、しばらくの間、欠場することを発表しました。
移植手術は簡単なことではありませんが、勇気を持って姉妹で乗り越えようとする姿を陰ながら応援したいと思います。
手術は6月下旬の予定。6月3日の東京・高島平区民館大会以降を最後に欠場に入ることになっています。
心から復帰を願っております。
公式ブログ:https://ameblo.jp/haruhimoeka/
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<インタビュー&記事執筆:飯塚 まりな>
ライター・イラストレーター
インタビューを中心に活動中。
Web、フリーペーパー、書籍を執筆。
ほんわかしたイラストを描く。